「最難関の数学」執筆の裏話

授業

 「テキストとは何か」のところで、私の数学の師匠:D先生について触れました。京大の文理合わせて11問、4時間半で解くことを想定して作られたセットを、D先生は約1時間で模範解答にまで仕上げてしまうという話です。

 実際、D先生との出会いは衝撃的な出来事でした。

 振り返ると、予備校講師になったばかりの私は自信満々の状態でした。京大の入試問題なら大体満点が取れるし、何と言っても授業は相当に上手いとうぬぼれていたのです。

 ところが、D先生の圧倒的実力を前にして、自分の数学の力なんて、取るに足りない程度であることを思い知らされました。

 それから自信を持っていたはずの授業も、全然ダメだと気付かされました。というのは、D先生の授業を受けている生徒に、一体どんな授業をされているのかをリサーチしてみたのです。

 これはさらに衝撃的でした。

 「1分単位で話すことがデザインされていて、板書を写したら、それがそのまま参考書になる」

 大体、こういう内容でしたが、正直言って、真似できるレベルではないと感じました。

 ところが、一旦打ち砕かれた自信が回復する出来事がありました。

 秋になったある日、京大の医学部を目指して多浪している生徒が、講師室の私のところにやって来て、目を輝かせて次のような話をしてくれたのです。

 「先生の授業を聴いて、京大の問題の解き方が分かりました。僕は誰よりも勉強しているという自負があります。数学の問題を解くためのパターンも誰よりも知っていると思います。でも、数学が足を引っ張っていて合格点が取れませんでした。知っているパターンに当てはめようとしていたのが間違いだったんですね!素直に読めば良かったんですね!」

 早口で語り続ける彼は、かなり興奮していました。

 彼の冠模試の成績は理科、英語、国語で偏差値70を越えているものの、数学だけが60台で、それが原因で思ったような判定が得られなかったわけですが、私の授業を聴くようになってから数学が伸び始め、このとき初めて数学も偏差値70を越え、A判定を取ることができたそうです。

 要するに私の授業が彼の何かを変えたということですが、それは一体何だったのだろうか?

 彼の話は私にとって非常に興味深いものだったので、細かいところまでいろいろと聞く中で、私にも強みがあることに気付き始めました。

 D先生のように先の先まで見えてしまわないことが、かえって生徒目線で京大の問題を解くための方法を考えるようにさせていたのです。そしてそれは、大多数の京大・東大受験生にとって必要な技術だったと思います。

 このとき以来、「見えない状況から見える状況に至るための問題文の読み解き方」を探すことが私のテーマになりました。

 そうして見つけた考え方については「京大・東大の問題はなぜ難しいのか」に書いた通りで、詳しい個々の内容は「最難関の数学」(教学社)にまとめました。

 

 

タイトルとURLをコピーしました