前回、テキストについて書いた中で、高校数学を1つのストーリーとして語ることが重要だということについて触れました。
少し伝わりにくい内容だったので、具体的に書こうと思います。
と言っても、書き始めると膨大な量になってしまうので、今回は違いが分かりやすい例として、ベクトルについてのみ書きます。
ベクトルは現在、数ⅢCに分類されていますが、それ以前は長年、数ⅡBに入っていました。いずれにしても、指導要領が推奨するところは、図形と方程式を学んでからベクトルを学ぶという順序です。
しかし、本当にそれでいいのでしょうか。
私なら「最初にベクトルで、次に図形と方程式」という順番で説明します。
まず、直線を表す方程式には関数型 y=ax+b と一般型 ax+by+c=0 がありますが、関数型は式を見れば傾きとy切片が分かるようになっており、中学生のときからのなじみもあり、一般型を関数型に変形してから扱う諸君が多いのです。
では、直線の一般型とは何でしょうか。
これは、内積から来た式です。
たとえば 2x+3y-7=0 で表される直線は (2, 1) を通るので、2(x-2)+3(y-1)=0 と書き直してみましょう。すると (2, 3)・(x-2, y-1)=0 という内積から来た式だということが分かります。
直線上の定点 (2, 1) と直線上の動点 (x, y) を結んで作ったベクトルが (x-2, y-1) であり、これと (2, 3) の内積が0であるということは、 (2, 3) がこの直線に垂直なベクトルであることを意味しています。
結局、直線の一般型 ax+by+c=0 は内積から来た式で、 (a, b) が法線ベクトルです。
一般型を関数型に直さないとイメージがわかないのは、ベクトルを習う前に図形と方程式を学ぶことの弊害の1つです。
次に、点 A:(p, q) と直線 l:ax+by+c=0 の距離の公式は d=|ap+bq+c|/√(a^2+b^2) ですが、図形と方程式を先に学んだ生徒で、この公式の導出ができるケースは極めて稀です。要するに、結果としての公式を覚えているだけで、その由来については何も理解していないということです。
この公式は垂線のベクトルの大きさです。
さらに、垂線のベクトルは正射影ベクトルから来ているわけで、これらを理解するためには内積に対する理解が必要です。
では、内積とは何かと考えると、それは余弦定理のベクトル版であり、、、というようにストーリーがつながっていくのです。
それから、 (a, b) (c, d) を直径の両端とする円の方程式は (x-a)(x-c)+(y-b)(y-d)=0 ですが、これもベクトルを学んでいない生徒は式の意味を理解することができません。
もちろん、直径型円のベクトル方程式の成分表示に他ならないわけですが、このように、図形と方程式の理論の多くはベクトルを基礎として作られているのです。
ですから、高校数学を1つのストーリーとして語るならば、最初にベクトルで、次に図形と方程式という順序にすると理解がスムーズに流れると思います。
一般に行われている「ベクトル」と「図形と方程式」を学ぶ順序がおかしいことについて書いてきましたが、そのほかにも高校課程の内容は疑問だらけです。関連事項について、少し余談をしておきましょう。
高校課程は5年ごとに改訂され、10年ごとに大きな改訂がなされます。
これを聞くと、その期間の取り組みの中で出て来た問題点を解決し、内容を改善するための改訂なのかと思うでしょう。
しかし、事実はそうではなく、改訂のための改訂になっており、改善というより改悪であることの方が多いのです。
特に今回のベクトルを数Cに入れたのは最悪中の最悪です。しかも、改訂案が出たときは、文系の諸君がベクトルを学ばないことになっていました。
さすがにそれはないだろうという批判が噴出し、この案は撤回されましたが、ここまでくると、こういった改訂案を考えた人たちの常識を疑います。
文部科学省がらみの話が出てきましたが、教育改革にも、どう見ても機能するはずのない改革案が出てきて、現場が大混乱するということが何度もありました。
その中でも特にひどいのが現在進行中の「生徒主導型授業」で、これについてはいずれ回を改めて書こうと思います。

