「附属小学校は成功しない」のところで書いた通り、小学生に中学数学を先取りさせるなどの試みは上手くいきません。そのようにして作ったリードは一瞬にして食いつぶされてしまうのです。
私の塾の小学生部でも中学数学を学んでいますが、「先取り」をしているという意識は全くありません。
では、どういう意図で塾内に小学生部を設置しているのかと言うと、刺激的に学べる場を提供したいということです。
思い返すと、自分自身が小学生のとき、学校の授業が退屈で退屈で仕方がありませんでした。 ほんの数分で分かるようなことを、45分もかけて説明することに耐えられなかったのです。
「休み時間まであと何分」などと数えつつ、1分が過ぎるのを1時間ぐらいに感じながら授業時間が終わるのを待ちました。必然的に、いつも窓の外を眺めてぼうっとしていたので、「稲荷君、また外を見てる!」と何度注意されたか分かりません。
これでは、勉強とは我慢することになってしまいます。
そうではなく、学びとは楽しいものであってほしいのです。
ですから、小学生部では、学校の進度が遅すぎると感じている小学生を対象に、1,2カ月で算数1年分のポイントを押さえ、中学数学に入ります。
「先取り」ではないということです。
そもそも「先取り」という言葉は「後で苦労しないために準備しておく」という意味を含んでいるように感じられるので、好きな言葉ではありません。
さて、今回のテーマは「小学生にとって何が大切か」ですが、すごく難しい問いかけです。
まず、先取りの効果が薄いことは確認しました。効果が薄いのであれば、やる意味は乏しく、大切なこととはなり得ません。
さらに、先取りどころか、中学受験のための勉強も大したアドバンテージにはならないと感じています。
「中学受験 vs 高校受験」のところで書いたように、中高一貫校に合格した中1生は勉強へのモチベーションが下がります。これは中学受験の勉強が必ずしも次につながるものではないことを意味しています。
仮にモチベーションが下がらなかったとしても、トップ中学に受かった子と何も勉強してこなかった公立中1生の学力は大差のように見えて、実はそれほど大きな差ではないのです。
私の塾の中学数学のクラスでは、中1生を対象に半年で中学数学を学び、続く半年で中学数学の演習をして、中2から高校数学に入る準備をします。中高一貫校の生徒も公立中学の生徒も同じメニュー、同じ進度で進めていきます。
確かに中1の初めごろは処理スピードにかなりの差があるように見えます。しかし差があるように感じる期間はほんのわずかで、1年が終わるころには混沌としてきます。中高一貫校、公立中学に関わらず、優秀な子は優秀で、苦戦する子は苦戦するのです。
トップ中学の生徒にも苦戦する子はいて、そういう現実を見ると、中学受験では一体何を判定しているのだろうかと疑問に感じます。
結局、中学受験では、やり方を覚え切ってしまえば受かるということだと思います。ですから、中学受験のための塾では徹底したパターン練習をさせていて、だからこそ、拘束時間が長くなるのではないかと想像します。
当然のことながら、そういった勉強は本質的ではありません。
結局、中学受験のために費やした膨大な努力は期待したほどの効果を生みません。
では、小学生にとって何が大切か。
「本物に触れること」のところで、私の2人の子どもが小学生のときに、テニスクラブに週6で通ったことについて大成功だったと書きました。
もちろん、勉強のための土台ができたなどという意味ではありません。
むしろ、勉強以外のことにこそ大切なことがあるように思うのです。
外でたくさん遊び、心を豊かにすること、友だちとの関係を作ること、熱中できることを探すこと …
また、お父さん、お母さんと出かけることも大切です。そうすれば、子どもだけの世界では経験することができないような多様な人間関係を肌で感じることができますし、何と言っても、遊び自体が本格的になります。
要するに、中学以降に伸びていけるように準備することが大切だと思います。小学生の段階では、将来どんな分野に進むか分からないので、勉強そのものではなく、その基礎になる部分に力を注ぐことが大切なのではないでしょうか。
最後に、個人的経験により重要だと思うようになったことを付け加えておきます。
それは、両親の仲が良いということです。
両親の仲が悪いと、子どもは人生に疑問を感じ、勉強をしようなどという気持ちにはなりません。「勉強しろ」と言う前に、子どもが安心して将来の夢を描けるような環境を作れるように努力したいものです。
