本物に触れること

教育

 これまでD先生のことを何度か書いてきました。

 D先生との出会いが私の講師としてのあり方に大きな影響を与えました。こういった飛び抜けた能力を持った方に接すると、自分も同じような高みを目指したいと願うようになり、そのためには何をどうすればよいのだろうかといろんなことを考えさせられます。

 もう少し遡って、私は高2と高3の2年間、将棋の奨励会に在籍していたことがあり、ここで谷川浩司君、福崎文吾君、南芳一君という天才たちに出会いました。特に谷川君は後に十七世名人になったことでも有名で、将棋に関心がない方でも彼のことはご存じだろうと思います。

 奨励会にいた2年間は濃密な体験の連続でしたが、人との出会いという意味では、この3人の印象が強烈に残っています。彼らの集中力は半端なく、他のメンバーとは見ただけで分かるほどの差がありました。

 あるとき、私の将棋の感想戦に谷川君が参加してくれたので、「この手はどうでしょうか?」と彼の見解を尋ねてみました。谷川君は私より3つ年下でしたが、実力がすべての物差しになる世界では、上位者に対しては敬語で話すことになるのです。

 このときの彼の反応を忘れることができません。まず、「バッカ、死ね!」と叫んで、手順については高速で手を動かして教えてくれたのです。

 見えている範囲や、先を読むスピードが桁違いであることは分かりました。しかし、ただただ悔しくて、50年経ってもこのときの情景が鮮明によみがえってきます。

 結局、私は自分の才能の限界を悟り、高校卒業と同時に奨励会を退会しました。 

 要するに敗北したわけですが、普通の人が知り得ない世界を覗いただけでも貴重な体験でしたし、自分の力を発揮できる別の分野を探す原動力になったと思います。トライしてよかったです。

 今回のテーマは「本物に触れること」で、すごい人との出会いが人生を変えるということを書いています。

 もう1人、私のテニスコーチを紹介しておきます。

 西村昌晃さんと言って、長年、京都でナンバー1プレーヤーだった方です。ベテランになってからは、35才以上というカテゴリーで3年連続全日本ベテランテニス大会で準優勝をしました。ベテランテニスは5才きざみでカテゴリーが分けられており、コーチはその後、45才以上のカテゴリーで悲願の全日本チャンピオンになりました。

 私は自分自身が40才になる手前からコーチに習い始め、それこそ、ラケットの握り方から教えてもらいました。レッスンは技術的なこと以上にしっかり動くことに重点が置かれ、そのあまりの厳しさに、レッスン後、吐いたこともありました。

 それで、コーチの何がすごいのか。もちろんテニスは強いです。それから、レッスンが上手いです。特にグループレッスンのときなどは、生徒が動きを止める場面がないように、実に見事に運営します。

 しかし、私が尊敬しているところは、そういったこと以上に、教育者としての情熱です。

 まず、コーチには休日がありません。年末年始ですら、ジュニアとおじさんの練習会を企画して動き続けます。

 野球で有名になった京都国際という学校のコーチをしていたときも、メンバー1人1人にテニスノートを書かせ、こまめにコメントを書き込んでいました。結果として弱小チームが生まれ変わり、強豪東山高校を破ってインターハイ出場を果たしました。

 私の子育てにおいて、成功も失敗もありましたが、2人の子どもをコーチのジュニアクラスに入れたことは大成功のうちの1つです。

 ジュニアクラスでは、年上の子もいれば年下の子もいるわけですが、その中で競い合い、ときにはみんなの前で大きな声で発言することが要求される場面もありました。人との自然な距離感を学ぶことができましたし、臆することなく自分の感情や考えを表現することができるようになったと思います。

 塾をしていて、質問したいのに質問できないような生徒を見るとき、小さいころにスポーツをしておけばよかったのに、などと思ってしまいます。

 そして何より、コーチのような人と出会えたことが2人の財産になりました。

 10年、20年、30年と、ぶれることなく、一つの道に情熱的に取り組める人はそんなに多くありません。そういう滅多にいない人に小学校入学から高校卒業まで12年間習ったことで、相当の影響を受けたと思います。

 実は、塾も影響を受けました。 

 コーチのジュニアクラスでは週に何回レッスンに参加しても同じ費用になっていて、私の子は2人とも週6回通っていました。正直言って、そんなに安いレッスン料でいいのかと思うぐらいでした。

 このシステムを我が塾も取り入れました。

 たとえば、途中入塾で数ⅡBから始める場合、基本的に数ⅠAの復習が必要になりますが、数ⅠAの授業分すべてを自習室でやってしまうことができます。そのために週に何回来ても、数ⅡBの授業料以外の費用は発生しません。

 単にビジネスをしているという以上に、情熱を優先させたいということです。

 ps. アイキャッチの写真はコーチを背景に長男と撮ったものです。

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