興心はいわゆる職人です。
今、彼が取り組んでいるのは、授業ごとのポイントチェックシートの作成です。
生徒は授業終了時にチェックシートの空欄に重要事項を書き込んで、それを提出してから帰ります。提出されたシートは正しく記入されているかどうかを確認した上で、次の授業のときに返却することになっています。
分かったつもりになっているだけで、実は見逃しているようなことがないかどうかを再確認するのに役立っていると思います。
元々は小テストと演習問題をすることで、その役割が果たされていると私は考えていましたが、意外にも間違った記入が多発し、このシートに効果があったことが浮き彫りになっています。
しかし、シートを作るにも、提出されたシートに目を通すのにも手間がかかり、塾側の負担が増えているとも言えます。
そういう意味で、興心は職人だと言ったのです。
実は、私自身も職人的傾向が強いタイプです。
あるとき、友人のU氏が言いました。
「稲荷さん、ある程度いいものができたら、さらにそれを良くすることよりも、どうやって売るかを考えなあかんで」
U氏はビジネス大好き人間で、「レストランに入ると客席がいくつ、店員が何人、…、儲かっているかどうか、俺ならどうするか」ということを勝手に考えてしまうんだと言っていました。実際、彼のビジネスはどんどんと成長し、今では彼はちょっとした長者になっています。
稲荷塾の名前が「稲荷塾」になったのも彼のおかげです。最初は「Math Lecture」、略してMLと名乗っていたのです。
「何やそれ、マルク・スレーニン主義か?! 稲荷さんは経歴もユニークで面白いんやから、もっと自分を売らなあかんで。稲荷塾にしっ!」
かくして、ML改め稲荷塾になったのです。
U氏には多くの影響を受けました。ホームページを作ったこと、チラシの内容を変えたこと、…。チラシには授業の質が高いことや少人数制であること等を謳い、細かい主張点は合格者の声の中で代弁してもらうようにしていましたが、「言いたいことは自分の言葉で言わなあかんで」と彼に一喝され、稲荷塾のチラシは根底から変わり、意見広告のようになったのです。
そして、その延長でブログを始めることになりました。
塾のサービスの質をさらに良くすることよりも、どのように宣伝するかということに注力しようとしているわけです。
そのうちに、自分が考えていることを文書にすることが趣味のようになってきて、エッセー「小さな数学塾のヒミツ」やその続編の小説「小さな数学塾のヒミツ」を書くに至りました。
しかし、依然として稲荷塾は小さな数学塾のままで、職人からビジネスマンへと転身できているわけではありません。
人の気質がそんなに簡単に変わるものではないということです。
ですから、稲荷塾の発展は二代目に委ねます。
えっ、興心は私に輪をかけたような職人だってか?!

