高校課程の改訂について

教育

 高校課程の改訂は5年ごとに行われ、10年ごとに大きな改訂が行われることになっています。

 しかし、これが必要な改訂かと言うと、全くそうではありません。

 改訂では、ある分野を入れると、全体の分量を一定にするために別の分野を削ることになりますが、どちらを入れてもその効果に大差がないとすれば、そういう出し入れには意味がありません。勢い、改訂のための改訂になってしまっていて、単に現場を混乱させるだけです。

 たとえば、前回の改訂ではベクトルを数Cに入れ、文系の諸君は学ばないという案が出されました。

 図形と方程式の理論の大半はベクトルを基礎に作られており、そのベクトルを除くとは一体どういうことでしょうか。バカも休み休み言ってほしいもので、誰がそんな案を出したのか、常識を疑います。

 当然のことながら、現場からの大反発が起こり、結果的に文系の諸君も学べるようになりました。

 それから、前回の改訂では統計が高校課程に入ってきたことが大きな変更点でした。実用的な数学を学ばせるという目標だったわけです。確かに統計は面白い分野ですし、「偏差値」などの高校生にとってなじみの深い言葉の意味も分かるようになりますし、「相関係数」等の日常生活の中で使われる用語に対する理解も深まるでしょう。

 しかし、長年高校課程から離れていた分野を再登場させるとなると、現場の先生には大きな負担がかかることになります。まず、教える前に先生自身がしっかりと理解することが要求され、それにも時間がかかりますし、教材を作るのも容易なことではありません。

 それに、入試では出題されない可能性が高く、そういう分野のために投入した時間と労力が無駄になりそうです。実際、授業では扱わないと明言している高校もあるぐらいです。

 実は、約50年ほど前、私が高校生だったころの高校課程には統計が入っていました。しかし、この分野を入試問題として出題したのは地方の単科医科大学ぐらいのもので、主要大学では出題されませんでした。

 なぜ出題されないのでしょうか。

 まず、統計で扱われる多くの部分が高校数学の範囲では説明できないので、根拠不明のことを天下り式に学ぶ形になり、高校生の立場からするとすっきりしないのです。

 それに、この分野を題材にした問題は、知っているかどうかを問うものになりやすく、応用力を問うような自在な出題がしにくいということもあります。

 結局、前回の改訂の目玉だったはずの統計の導入ですが、狙い通りには機能していません。

 ということで高校課程の改訂は、決して課程の内容をよくするためのものにはなっていないということです。

 そして今回、2032年から実施予定の改定案が出されましたが、どうしてそのような案になったのか疑問だと言わざるを得ません。

 最大の疑問は、行列を復活させることです。以前の改訂で行列を削り、その代わりに複素数平面を入れるということがありましたが、そのときはなぜ行列をカットし、今回はなぜ入れるのでしょうか。

 納得できる説明ができると思いますか?

 

 しかし、行列が面白い分野であることは事実なので、簡単に紹介しておきます。

 実数を実数に対応させる関係を調べるものが関数で、実数 x, y の組、つまり点ですが、点を点に対応させる関係を調べるものを変換と呼びます。

 変換の入り口に1次変換というものがあり、1次変換の中には他のさまざまな分野で学んできた内容も多く含まれています。たとえば、原点の回りのθ回転、原点を中心とする k 倍の相似変換、原点を通る直線に関する対称移動、原点を通る直線への正射影、特定の2方向への縮小・拡大等です。

 そして、この1次変換に使われる道具が行列なのです。

 どうでしょうか。面白そうでしょう。

 ところが、1次変換のための準備としての行列がかなりの分量を持っているので、前回、行列が高校課程に入っていたときは、1次変換を飾り程度にしか扱うことができなかったのです。

 そうすると、高校生の側からすると、何に使われるのかが分からない行列の計算を延々と学ぶような感覚になり、行列が高校課程に入っている意味が乏しかったと言えます。

 行列を学ぶことが意味あるものにするためには分量を増やすしかありませんが、そうすると他の多くの分野を削ることになり、それは無理です。結局、以前に入っていたときと同じような扱いになるだろうと予想されます。つまり、課題は解決されません。

 しかし、案が出た以上、行列が高校課程に復帰する可能性は非常に高いと思います。

 思いっ切り文句を言いたい気分ですが、批判ばかりしていても仕方がないので、自分のできることをしたいと思います。

 まず、「最短でマスターする数学」を改訂すること。次は、塾のテキストや小テスト、演習問題を準備すること。

 特に「最短でマスターする数学」の改訂は、行列が復活するかどうかの最終決定がなされてから動くのでは間に合いません。

 ということで、この2週間ほどは行列・1次変換の解説を作り、Tex で打つという作業に全面的にエネルギーと時間を投入していました。

 ブログの更新が遅れていたのはそのためです。

 しかし、原稿作りの主な作業は終わったので、これからはまた週1以上のペースでブログが更新できると思います。

 よろしくお付き合いください。 

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